突然ですが、12345と10まで数えてから、「あいうえおかきくけこ」と言ってみてください。
次に、この二つを組み合わせて、「1あ2い3う4え・・・」と続けて、「9け10こ」まで言ってみてください。
どちらの方が多く、時間がかかったでしょうか。
当然ですが、「123・・・」と言った後に「あいうえ・・・」と続けた方がスムーズで、「1あ2い・・・」と続けていく方が時間がかかります。
じつは、これは、一度にいくつものことを同時に行うマルチタスクの効率の悪さを示す簡易実験です。
私たちは、忙しくなるとどうしても多くのことを同時にこなしたくなります。
私のようなせっかちな人間は、とくにそうした傾向があります。
しかし、この実験からわかるように、課題をひとつずつ片付けていくシングルタスクの方が効率的に課題をこなすことができます。
こうした考え方は、認知行動療法の面談のなかにも取り入れられています。
認知行動療法の面談のときには、アジェンダ設定といって、その回にどのような問題を取り上げるかをまず決めます。
アジェンダというのは、そのときに解決すべき課題という意味ですが、基本的に一回の面談で取り組む問題は、ひとつに限ります。
ひとつの問題にじっくりと取り組んで、解決の手がかりを探っていくのです。
ところが、最初のころ、患者さんは一度にいくつもの問題に取り組みたいとおっしゃることが少なくありません。
それだけつらい思いをされているのでしょう。
その気持ちはよくわかるのですが、すでに書いたように、マルチタスクはエネルギーを使う割に、効率が悪いことがわかっています。
ひとつの問題に取り組んでいるときに、別の問題が気になってきて、集中して問題に取り組むことができなくなります。
そうした状況を避けるために認知行動療法では、1回の面談でひとつの課題に取り組むようにしています。
ひとつの課題が解決できれば、それが自信になりますし、そこで使った対処法を他の場面で使えるようにもなります。
あわてないで、一つひとつ課題に取り組むことで、その後の展望が開けてくるようになります。