今月の初めに、幕張メッセで日本精神神経学会の総会が開かれました。
七千人近くが集まる、わが国で最大規模の精神科医の学術集会です。
私もいくつかのセクションで話をしたり司会をしたりしました。
私が司会をしたシンポジウムのなかで、マインドフルネスの第一人者の越川房子先生が話をされました。
越川先生は講演のなかでNとMの話をされることがよくあります。
講演会場の前のスクリーンに、“N”か“M”のどちらかの文字が不規則に映し出されていきます。
聴衆は、次に何が映し出されるか想像しながらスクリーンを眺めます。
そうすると、いつの間にかスクリーンの文字に気持ちが集中するようになって、それまでの思い悩みから解放されてきます。
自分の心の中の思い悩みから解き放たれてまわりに関心が向くようになったこの状態がマインドフルなこころの状態なのです。
だからといって、そのときは、単にNが映し出されるのかMが映し出されるのかに関心が向くようになっただけで、こころが自由になったとは言えないのではないかという疑問がわいてきました。
単に悩みから気を逸らしているだけで、その作業が終われば、すぐに悩みに逆戻りするのではないかと思えたのです。
そのことを越川先生に尋ねてみたところ、越川先生は、単に気持ちを逸らすだけではなく、次に何が出てくるか期待するこころの動きが出てくることが大事だとお話しになりました。
その話をうかがって、なるほどと思いました。
私たちは、思い悩んでいるとき、その悩みにとらわれて、その場で足踏みをしているような状態になっています。
どうせこの先良いことなど起こらないだろうと考えて、絶望的な気持ちになっていることがよくあります。
そうすると、先に目を向けて次に進んでいくことができなくなります。
そうしたときに、「次に何が出てくるか」と次を期待する内容を含んだ作業をすることで、次に目を向けられるこころの状態を作り出すことができます。
いま考えていることが、必ずしもこれから先の現実ではないこともわかってきます。
そう考えることができるようになれば、一時的な気ぞらしに終わることなく、先に進んでいけるようになってきます。