先週は、問題に取り組むとき、目の前の問題にとらわれずに、自分にとって何が大事かを忘れないようにすることが大切だと書きました。
大人でも子どもでも、私たちは毎日、いろいろな問題に直面します。
そして、そのとき、その問題がとても大事なことのように思えます。
何とかしなくてはならないとあれこれ考えます。
しかし、後になって考えてみると、それほど思い詰めなくても良かったのではないかと考えることもたくさんあります。
大変なことが起きたと考えて気持ちが動揺しても、時間が経つと少しずつその気持ちが和らいでいることは少なくありません。
昔から「日薬」と言われているのは、そのことを私たちが経験的に知っているからです。
私は1985年の秋にニューヨークに留学しましたが、そのとき、エイズが社会的な問題になっていました。
それがHIVウィルスによる感染症だということはわかっていましたが、それ以上のことはまったく分かっていなくて、皆が戦々恐々としていたのを覚えています。
そのストレスに対処するために、私に認知行動療法の手ほどきをしてくれた心理の先生が、HIVに感染したと分かった人のストレスを軽くするのに認知行動療法が役立つかどうかの研究をしていました。
HIVに感染したと分かった人は、当然、絶望的な気持ちになります。
「どうなってもいい」と考えて、好ましくない行動を繰り返して他の人にウィルスを感染させることが社会的な問題になっていたからです。
その結果、たしかに認知行動療法がストレスを和らげて気持ちを軽くするという効果があることを証明できたのですが、それだけでなく、絶望的になった人も時間が経てば気持ちが軽くなってくるということも分かりました。
これは、良いことが起きても同じです。
高額の宝くじに当選して大喜びしている人も、時間が経てば次第に落ち着きを取り戻します。
私たちのこころは、良いことにしても良くないことにしても、衝撃的な体験をしたときに、一時的に大きく揺れたとしても、時間とともにもとのレベルに戻る力を持っています。
ですから、気持ちが揺れるような体験をしたときに、反射的に行動しないで、自分を取り戻すための時間を作ることが大事なのです。