行動実験の結果が期待どおりでなかったとしても、その結果をいかすことが大事だと前回書きました。
それでは、期待どおりいかなかったときにはどのようにすれば良いのでしょうか。
どのような実験でも同じですが、期待どおりにいかなかったときには、最初の期待に無理があった可能性と、実験の手順に問題があった可能性が考えられます。
期待どおりの結果が得られず失敗のように思えても、失敗の背景について冷静に考えることができれば、新しい展開が開けてきます。
認知行動療法の創始者のアーロン・ベック先生が最初に認知行動療法の着想を得ることができたのも、実験で思うような結果が得られなかったためです。
50年近く前のことになりますが、ベック先生は、うつ病にかかった人の心理について、精神分析の仮説を実証しようと研究を続けていました。
そのころ、精神分析では、うつ病にかかった人は怒りを自分に向けるために落ち込むことになったと考えられていました。
大切な人と別れなくてはならなくなったとき、自分を見捨てていくその人に怒りを感じるのですが、それを相手にぶつけることができません。
その結果、そのような状況を引き起こした自分の対応が悪かったと無意識に考えて、自分を責めるようになり、落ち込むようになるというのです。
そのようにして怒りが自分に向くようになっているということを証明するために、ベック先生はうつ病の人の夢をたくさん集めました。
夢のなかに無意識の怒りがたくさん含まれているはずだと考えたからですが、実際に夢の内容を分析してみると、怒りではなく悲観的な考えがたくさん含まれていることがわかりました。
怒りに満ちているという仮説、つまり最初に期待した結果とは違う結果になってしまったのです。
このようなとき、私たちは、結果が間違っていると考える傾向があります。
自分が考えた仮説が間違っているはずがないと考えて、同じことを繰り返し試し、最終的に疲弊してしまうことになります。
このような「間違っているはずがない」という考えにしばられた状態から脱する手順は、ベック先生のその後の行動から学ぶことができます。
次週は、その後のベック先生の行動について書くことにします。