先日、女子マラソンの有森裕子選手や高橋尚子選手を育てた小出義雄監督が亡くなったという報道に接して、日本ポジティブサイコロジー医学会での有森さんの講演を思い出しました。
日本ポジティブサイコロジー医学会というのは、先週紹介したマーティン・セリグマン博士が提唱したポジティブ心理学を、医学の立場から科学的に検証することを目的に設立された学会です。
その第1回大会が福島県郡山市で2012年に開かれたのですが、そのときの佐久間啓会長が特別講演に有森さんをお呼びしたのです。
その前年に、有森さんが会長を務めている知的障害者によるスポーツの祭典、スペシャルオリンピックスの開催を佐久間会長が支援したご縁で実現した企画です。
有森さんの講演は、とても明るくエネルギッシュで、東日本大震災で傷ついた地域の人のこころに力を与えるような内容でした。
その講演のなかで、有森さんは、小出監督について語っていました。
小出監督は、とても前向きで、選手を力づけるのが上手だったようです。
たとえば、有森さんは猫背で、そのことが小さい頃からコンプレックスだったそうです。
猫背は、骨格などが影響しているので、直そうとしてもなかなか直すことはできません。
そのように猫背で悩んでいる有森さんに対して小出監督は、次のように言ったそうです。
「有森、俺はランナーに、走るときには前傾姿勢になれと言っている。だけどみんなできないんだ。おまえは生まれつき前傾で良いな…」
お互いの信頼感があったからでしょう。
その言葉を聞いて、有森さんはとても励まされた気がしたと言います。
私たちは、自分で考えるとマイナスのように思える特徴をたくさん持っています。
でも、このように見方を変えると、それがプラスにもなっているということがわかります。
そうすると、その特徴をいかして、自分らしく生きていくことができるようになります。
認知行動療法では、考え方のクセが話題になることがよくあります。
「完璧主義」や「べき思考」など、考え方のクセが自分を苦しめているというのです。
そのように考えると、まるで自分の考え方が悪いように思えてきます。
でも、「完璧主義」だからこそきちんと仕事や家事、勉強ができます。
「べき思考」だから、つらい状況で頑張ることができます。
良いか悪いかという考えから自由になって自分の特徴をいかすことの大切さを有森さんの講演から学びました。