ここ何回か、前向きに考えることでこころの力を引き出しやすくなるということを書きました。
しかし、前向きに考えるということは、「すべてうまくいく」ないしは「すべてうまくいった」と楽観的に考えることではありません。
そのようにポジティブに考えることで、思いがけない失敗をすることもあるので注意が必要です。
日本経済新聞に連載しているコラム「こころの健康学」で、今週(2月3日付)、私が最初に大学受験をしたときの体験を書きました。
ある雪国の大学を受験したのですが、試験を受けた後、私はすっかり合格した気分になって、出身地の愛媛県から長距離列車を乗り継いで合格発表を見に行きました。
模擬試験の成績でも十分合格する範囲に入っていましたし、本番の試験の時もとてもよくできたと思ったからです。
そして雪のなか、合格者が掲載されている掲示板の前に立って、意気揚々と自分の受験番号に目を向けました。
ところが、当然そこに掲載されているはずの私の番号がないのです。
何かの間違いではないかと何度も確認しました。
しかし、やはり私の番号はありません。
呆然としました。
また長距離列車を乗り継いで郷里に帰ることになったのですが、しばらくは気落ちして何もする気になれませんでした。
この体験を振り返って思うことですが、「何の問題もない」「自分は何でもできるんだ」といった極端にポジティブな考え方は、根拠のない自信というか、思い込みに過ぎないことがあります。
そうすると、ていねいに問題に取り組んで解決していく慎重さを忘れてしまって、むやみに先に進んでいくことになりかねません。
「とてもうまくいっている」「失敗なんかするはずがない」と極端にポジティブに考えるようになっているときには、取り組まなくてはならない問題に目を向けられていない可能性があります。
「勝って兜の緒を締めよ」という言葉がありますが、うまくいっているときほど、良くない部分に目を向ける勇気が必要なのです。