先週、こころが落ち込んだときや不安になったときには、通常誰でも体験するような気持ちの動きなのか、いわゆる病気と言われるような大きな気持ちの揺れなのかを冷静に判断することが大事だと書きました。
しかし、そう言われても、どこまでが通常のこころの揺れで、どこからが病気の状態なのか判断できないと考える人もいるでしょう。
たしかにその通りで、いわゆる正常な状態と病的な状態とをはっきり区別できる客観的な目安はありません。
そのことは、私が親しくしている世界的な精神科医のアレン・フランセス先生も著書『〈正常〉を救え―精神医学を混乱させるDSM-5への警告』(講談社刊)のなかで書いています。
こころの不調を判断するのに、体温計や血圧計のように客観的に数字で評価する方法はないのです。
そのために、不必要に薬が使われてしまうことがあったり、逆に、きちんとした治療が必要な状態が気づかれないまま見逃されてしまうことがあるので注意が必要だと、フランセス先生はその著書のなかで警告しています。
それでは、どのようにして判断すれば良いのでしょうか。
私は、重症度と経過で判断するのが良いと考えています。
その状態のためにどの程度苦痛を感じているかと、その状態がどの程度毎日の生活に影響を与えているかということのふたつで判断します。
「とてもつらくてしようがない」と感じるようになったり、「毎日の作業が思うように進まない」というようになったりしていれば、ちょっと立ち止まる必要があります。
真面目な人ほど、まだ大丈夫と考えて頑張りすぎてしまうことがありますが、勇気を出して立ち止まることが大事です。
そのうえで、そのつらさがどのように変化しているか、その経過を冷静に判断するようにします。
それが一時的なもので、次第に軽くなっていくようであれば、そのまま様子を見るようにします。
もし、その状態が変わらないまま続いたり、だんだんと強くなったりしていく場合には、信頼できる人に相談したり、医療機関を受診したりするようにすると良いでしょう。
とても主観的な判断になりますが、こころを健康にするためには、こうした主観的な判断を大切にする必要があるのです。