こころトーク

2022.01.14

第329回 「ポジティブな出来事に目を向けてみませんか?」

認知行動療法というと、「ポジティブに考える」アプローチだと誤解されることがあります。

たしかに、認知行動療法の考え方に基づいた認知行動変容アプローチを用いれば、それまでのネガティブな考えからポジティブに変わることは少なくありません。

しかし、それは結果としてポジティブになったのであって、ポジティブに考えようとしてそうなったのではありません。

認知行動療法の創始者のアーロン・ベック先生は、ポジティブな出来事に目を向けることの大切さを説いていました。

それは、私たちは、落ち込んだり不安になったりすると、良くない面ばかりに目を向ける傾向があるからです。

専門的には、ネガティビティバイアスと言われたりしますが、良くない面に目を向けることで自分を守ろうとするのです。

そもそも、うつや不安、怒りなどのネガティブ感情には、良くないことが起きている可能性があることを伝えるアラームの役割があります。

ですから、私たちは、身の回りに良くないことが起きていないか、注意深く確認しようとします。

もし良くないことが起きていれば、すぐに対応策を考えることができます。

それはとても大切なこころの働きですが、こころのアラームの精度はそう高くありません。

自分の身を守るために、少しの異変にも敏感に反応するようにできています。

しかも、最初は問題ないように思えても、本当に問題がないかどうか何度も確認するようになります。

ベック先生の言葉を借りると、ある特定のことにフォーカス(焦点)を当て続けるようになってしまうのです。

その結果、良くないことばかりに目が向くようになって、こころが休まらなくなります。

そうしたときには、意識的に良いことにも目を向けるようにすることで、こころのバランスがとれて気持ちが落ち着いてきます。

良いことが目に入ってくると、いろいろな可能性が見えてきて、前向きに考えられるようになってきます。

このように、現実の情報を集めることで、結果的にポジティブな考えができるように手助けしていくのが認知行動療法です。

前の記事 次の記事