こころトーク

2022.06.10

第350回 「時間が問題を解決するいくつかの可能性」

前回は、児童思春期精神医学の第一人者の青木省三先生が「時薬、人薬、楽薬」についてお話しになったと書きました。

認知行動療法の考え方と共通しているところが多く、精神的に悩んでいる人の手助けを真剣にしていくと、基本的に同じことを重要に感じるようになるのだと思ってうれしくなりました。

「時薬」というのは、時間が問題を解決してこころが軽くなるという意味ですが、私はこれにはいくつかの可能性があると理解しています。

まず、時間とともに問題自体が解決してくる可能性があります。

それぞれの人が取り組むことで、少しずつ問題が解決される可能性があるからです。

こうした現実的な可能性に加えて、心理的にも問題の受け取り方が変わり、その結果、こころが軽くなる可能性もあります。

ずいぶん前になりますが、「こころトーク」で、私が留学したときに認知行動療法の指導を受けたバルック・フィシュマン先生たちが認知行動療法の考え方を使って、エイズの原因ウイルスのHIV(ヒト免疫不全ウイルス)への感染がわかった人のストレスをやわらげる研究をしたと書きました。

HIVに感染したとわかった人が、すぐにでもエイズを発症して死んでしまうと考えてやけっぱちの行動をとると、自分が苦しくなるだけでなく、HIVを他の人に移してしまう可能性が高くなります。

研究結果からは、そうしたときに、時間に関する認知の修正を行うことでストレスが軽くなり、他の人に感染させるようなリスクの高い行動をする可能性が減ってくることがわかりました。

HIV感染がわかっても、エイズを発症するまでには何年もかかり、そこから命を落とすまでにも何年もかかることを認識できれば、現実に目を向けて自分らしい生き方を取り戻すことができるのです。

こうしたことに加えて、その研究から、何も特別なことをしなくても、半年経てば自然にストレスが減っていたということもわかりました。

時間それ自体がストレスを和らげていたのです。

こうした時間による変化は、ネガティブな感情だけでなくポジティブな感情でも同じように起こることがわかっています。

そのとき、ポジティブで自分らしい生き方のためには、大きい喜びではなく、小さい喜びをシャワーのように浴びることも大事です。

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