こころトーク

2022.09.23

第365回 「平安時代の女性のしなやかさ」

前回、問題をうまく解決できないときは、落とし穴から顔を出してあたりを見回すと、いろいろな解決のヒントが目に入ってくると書きました。

私たちは、問題に直面すると、頭が固まってしまって、普通だったら簡単に思いつけるような解決策さえ思い浮かばなくなってしまうからです。

10年以上前のことになりますが、日本女性心身医学会に呼んでいただいて講演をしたことがあります。

そのときに講演されていた中西進さんの話は、その意味でとても興味深いもので、それ以来、自分の講演のなかでも紹介させていただいています。

中西さんは、医学とは関係のない平安時代の専門家ですが、平安時代の女性がとてもしなやかな考え方をしていたという話をされました。

平安時代に、平中というプレイボーイがいたそうです。

素敵な女性だと思えばすぐに声をかけるような男性です。

もちろんその時代ですから直接声をかけるのではなく、和歌と一緒に手紙を送ります。

ところが、いくら手紙を送っても返事のない女性がいました。

平中は仲間から馬鹿にされるのではないかと考えて困ってしまい、一通の手紙を送ります。

そこには、長い返事はいらないと書かれていました。

和歌もつけなくて良い、手紙を読んだという簡単な返事が欲しいと書いたのです。

そこで、女性が困ってしまいました。

読んだという返事を送れば、手紙が来たと言われてしまいます。

返事を出さなければ、読んだという返事さえよこさないひどい女性だと言われてしまいます。

どちらを選択しても、良い結果にはなりそうにありません。

「このようなとき、皆さんだったらどうしますか?」と、中西さんは聴衆に質問されました。

さて、皆さんだったらどうされるでしょう?

じつは、この女性は返事を出したのです。

それも、「せめて読んだ・・・」と書いてきた平中の手紙の「読んだ」の部分だけを破り取って、それを送り返したというのです。

その返事を手にした平中は、どうすることもできなかったそうです。

私たちもこうしたしなやかさを持てると良いですね、と中西進さんはおっしゃっていました。

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