先週紹介したリカバリーを目指す認知行動療法は、重い精神疾患を持っている人のために役に立つように認知行動療法を改良していくところから始まりました。
しかし、私は、アーロン・ベック先生と話をしたり、ベック先生たちが書いた書籍『リカバリーを目指す認知行動療法』(岩崎学術出版社)を読んだりして、重い精神疾患を持っているかどうかに関わりなく、誰にでも役に立つ方法だと考えています。
それは、揺れている自分を落ち着かせ、自分らしさを取り戻す方法だからです。
今回行われたワークショップのなかでジュディス・ベック先生が紹介した患者さんとの会話からも、そのことがわかります。
ジュディス・ベック先生は、患者さんがうなだれて面接室に入ってきたときのエピソードを話してくれました。
その患者さんは、何も話をする気力がないように見えます。
従来の認知行動療法であれば、「いま、どのようなことを考えていますか」と聞いて、否定的な考えを修正しようとするでしょう。
でも、そのように落ち込んでいるときに自分の考えに目を向けて話をするのは、むずかしいはずです。
そう考えたジュディス・ベック先生は、テーブルに置いてあったコップを手に取ります。
そして、このコップに水が入っていなかったとすれば、ほかにどのような使い方ができるかと患者さんに問いかけます。
患者さんは、貝殻を入れるかもしれないと言います。
ジュディス・ベック先生は貝殻がどのような色をしているか尋ねます。
患者さんは貝殻の色を思い浮かべ、それを口にします。
患者さんの表情が少し明るくなります。
ほかにどのような使い方があるか、ジュディス・ベック先生はさらに質問を続けます。
すると患者さんは、コップの底に車を着けるとおもちゃの自動車ができると言います。
ジュディス・ベック先生は喜んで、それは私の孫が喜ぶだろうと言います。
患者さんに微笑みが戻ってきます。
この患者さんの想像力を信じて、それを生かす話をしていく様子がとても魅力的でした。
このようにこころに栄養を与える方法は、治療面接の場面だけでなく、日常生活のなかで誰にでも使えます。
そして、これがリカバリーに通じる道です。
ジュディス・ベック先生のワークショップは熱が入って、30分以上延長しました。
関心のある方のために、ワークショップを6月18日までオンデマンド配信で視聴いただけるようにしました。ただし、新規申込の方は有料になります。
■Judith Beck 先生講演・ワークショップ オンデマンド配信
https://semican.net/event/medical-bank/uisytb.html