今回も、行動実験の話を続けます。
以前にも「こころトーク」で書いたことがありますが、認知行動療法の創始者のアーロン・ベック先生は、フィラデルフィアで勉強するように私を誘ったとき、「肌で体験することが大事だ」と言いました。
いまになって、それが行動実験を勧める言葉だったのだと思っています。
しかし、そのときの私は、そのベック先生の言葉をじゅうぶんに理解していませんでした。
そのころ、私はニューヨークにあるコーネル大学で、いろいろな精神科の治療法について勉強していました。
そのかたわら、週1日、列車に乗ってフィラデルフィアのベック先生のクリニックに通って、認知行動療法の勉強を続けていました。
そうしたときに、認知行動療法のメッカと言われるベック先生のクリニックで、多くのスタッフと一緒に認知行動療法を勉強できる機会を持てることは願ってもないことでした。
実践的な認知行動療法を集中的に勉強することができる、そう考えた私は、さっそく、大学を移る準備を始めました。
たしかに、多くの先輩に囲まれ集中して勉強できる機会はとても大切でした。
ただ、それはいろいろな知識を得ることができるというだけのことではありません。
その場の雰囲気を感じることの大切さです。実際に現場に身を置いてみると、それまで自分が考えていたことと現実が微妙に違ったりします。
具体的には説明しにくいのですが、そうした感覚的な体験が、それまでの自分の思い込みを変えていきます。
まさに「肌で体験すること」の大切さです。
認知行動療法というと、考えのクセに気づくとか、考えを切り替えるとか言われますが、考えを切り替えるのは頭の中だけではできません。
それまでの自分の考えが正しかったかどうかは、実際に体験してみて、はじめてわかります。
その結果、考えが切り替わります。
そうしたとき、考えを意識して切り替えようとしなくても、自然に切り替わっていきます。
これこそが行動実験なのです。