こころトーク

2016.06.24

第39回 「私たちの持つ、2つの思考パターン」

個人的な話になりますが、私が精神療法(心理療法)の手ほどきをしていただいたのは、慶応大学の教授を務めた精神科医の小此木啓吾(おこのぎ・けいご)先生です。

小此木先生は、専門家の間では精神分析学の第一人者として知られていましたが、『モラトリアム人間の時代』で広く一般の方たちにも知られるようになりました。

私は、医者になってからずいぶん長い間小此木先生の指導を受け、アメリカに留学したのも小此木先生の紹介を受けてのことです。

ずいぶんとお世話になったのですが、それだけに厳しく指導していただきました。

ある日のこと、英語の書籍を渡されて読むように勧められました。

私は何気なく受け取ったのですが、翌週になって先生にお会いすると、その本を読んでどのように考えたか、感想を求められたのです。

私は驚きました。

本を渡されてから何日も経っていません。

それに英語の専門書です。

そういった趣旨のことを言って、まだ本を読んでいないと答えたところ、小此木先生は、英語の本でも2、3日で1冊読めるくらいにならないとダメだとおっしゃいました。

この話を思い出したのは、私たちの思考パターンに「自動操縦パターン」と「熟慮パターン」の二つがあるということを考えていたときのことです。

自動操縦パターンというのは、瞬間的かつ自動的に判断するこころの動きで、熟慮パターンというのは、多くの情報を集めてゆっくりと考え判断するこころの動きです。

私たちはほとんどの場合、自動操縦パターンで判断し行動をしていて、だからこそ多くのことをこなせています。

小此木先生から指導していただいたときのことを思い出しながら、先生は自動操縦パターンで本を読んでいらったのだろうと考えました。

本の中のいくつかの重要な文章を瞬間的にピックアップして、そこに書いてある内容を理解できるから、驚くほどの速さで本を読むことができたのだろうと思います。

そして、それができたのは、それまでの経験の蓄積があったからです。

経験に裏打ちされた知識があったからこそ、多くの情報が詰まっている本の中から重要な情報を抜き出すことができる。

それを積み重ねることでさらに経験と知識が積み重ねられていく。

そして、その積み重ねがあるから、臨床場面や現実生活で的確な判断ができる。

小此木先生との会話を思い出しながら、自動操縦パターンの有効活用のコツが少しわかったように思いました。