平昌オリンピックの閉会式が行われた翌日、今週の月曜日にぼんやりとテレビを観ていたら、NHKスペシャル「金メダルへの道 逆境を乗り越えて」が始まりました。
何となく観ていたのですが、これがじつに面白く、認知行動療法の考え方の意義がわかる内容でもありました。
いろいろと苦しい立場に立たされながら、そのなかで金メダルを取ったアスリートたちの物語です。
最初に登場したのは、羽生結弦選手です。
誰もが知っているように、昨年11月、練習中に右足関節外側靱帯損傷の大けがをしました。
演技しているときにはわかりませんでしたが、オリンピックでは、鎮痛剤で痛みを抑えながら滑ったといいます。
最終局面で鎮痛剤を使うことを決断したという話から、羽生選手のオリンピックにかける思いを感じ取ることができました。
何よりも印象的だったのは、自分の脚の状態を考えてジャンプの内容を変えたことです。
変更のプロセスを聞いて、じつに丁寧にジャンプの構成を考えていることに、まず驚きました。
しかも、直前になって、自分の体調を考えながらジャンプの構成を変えていくのです。
難度を落として減った点数を「できばえ点」でカバーすることを考えます。
自分を冷静に見つめているからこそ、こうした丁寧な準備ができるのでしょう。
認知行動療法の創始者のアーロン・ベック先生が、“distancing(距離を置くこと)”という言葉を認知行動療法のキーワードのひとつとして使ったことを、思い出します。
気持ちが動揺するようなストレス状況に直面したとき、自分の置かれている状況から距離を置いて違った目で見つめ直すのです。
そうすると、とっさの判断に縛られない現実的な判断ができるようになり、困った問題にも的確に対応できるようになります。
脚の痛みを抱えながらジャンプの構成を考えていく様子は、まさに“distancing(距離を置くこと)”のプロセスでした。
しかも、羽生選手は、滑っている途中で思うようなジャンプができなかったとき、その後のジャンプの構成を変えて、得点を取り返しに行きます。
その柔軟な発想も認知行動療法的です。
もちろん、コーチや仲間、応援団の存在も大きかったでしょう。
このような冷静な準備、とっさの切りかえ、仲間との絆、どれを取っても私たちの生活で大事な要素にあふれています。