こころトーク

2018.05.25

第139回 「統合失調症と認知行動療法のアプローチ」

今月から来月にかけては、立て続けに、私が書いた本や監訳した本が出版されています。

この時期は、新年度の環境の変化が一段落して、こころの疲れが出やすい時期だということも影響しているようです。

その一方で、そうした発売事情とは関係なく、何年かかけて取り組んできた訳本『ベックの統合失調症の認知療法』(岩崎学術出版社)も出版されました。

この本は、認知行動療法の創始者のアーロン・ベック先生が近年取り組んできた統合失調症のリカバリーを手助けすることを目的とした認知行動療法のアプローチをまとめたものです。

統合失調症というのはいわゆる精神病で、精神的エネルギーが低下し、現実を判断する精神的力が低下した状態です。

そのために、気持ちの動きが少なくなって周囲から引きこもりがちになり、筋道だった考えができなくなって、支離滅裂と呼ばれるまとまりのない話し方になったりします。

被害妄想と呼ばれる現実離れしたような被害的な考えにとらわれたり、幻聴と呼ばれる現実には存在していない声が聞こえたりするようになったりすることもあります。

こうした状態になるのは、とくに脳内物質のドーパミンに関係した脳の神経ネットワークに変調が起きるためだとされていて、薬を使った治療がおもに行われてきました。

最近は副作用の少ない薬も開発されて、薬だけで症状が改善してくる人もいるのですが、それでも症状が残っている人もいます。

しかし、症状が残っているからといって、自分らしい生活を送ることができないわけではありません。

症状を抱えながらも、自分が関心のある領域を中心に、自分らしく生きていっている人はたくさんいます。

こうした状態を“リカバリー”と呼んでいて、アーロン・ベック先生は認知行動療法を使ってリカバリーの手助けをしたいと考えて、熱心に取り組んできています。

それが可能になるのは、認知行動療法が、毎日の問題に出会ったときに、ちょっと立ち止まって自分の考えや行動を振り返り、適切に行動したり考えたりして、問題にうまく対処できる力を育てるアプローチだからです。

これは、こころや体に不調があってもなくても、誰でもが使える方法です。

だからこそ、統合失調症やうつ病のような精神疾患の治療にも、毎日のストレス対処にも使えるのです。