こころトーク

2019.07.05

第197回 「マジック・モーメント(魔法の瞬間)を大切に」

先週も書いたように、アメリカ留学時代の恩師で友人でもあるアレン・フランセス先生が家族と一緒に日本にやってきました。

フランセス先生には、日本に到着した翌日、無理を言って私の後輩たちに1時間あまり講演をしてもらいました。

フランセス先生は、もう70歳代後半になりますし、今回は観光目的の来日だったのですが、気持ちよく講演を引き受けてくれて、疲れも見せずに丁寧に、しかも情熱的に話をしてくれました。

最近の米国の精神医療事情から、認知行動療法などの精神療法(心理療法)の役割など、話の内容は多岐にわたっていました。

そのなかで彼が強調したのは「修正感情体験」です。

「修正感情体験」と言われても、専門家でなければよくわからないかもしれません。

これは、とくに精神療法の領域で使われる言葉で、自分が最初予測していたことと違った良い体験をすることで新しい気づきが生まれるという意味です。

もう少し具体的に説明してみましょう。

それまでのつらい体験なども影響して、「自分のことを考えてくれる人など誰もいない」と考えている人が、真剣に話を聞いてもらっていると実感できて、自分のそうした否定的な考えが変わるという体験です。

それは、人間関係に対する否定的な考えが変わるという意味で認知行動療法による変化とも共通しますが、こうしたことは他の精神療法(心理療法)でも同じように起こっていると、フランセス先生は言うのです。

フランセス先生は、その変化の瞬間を「マジック・モーメント(魔法の瞬間)」と呼んでいました。

講演の後、フランセス先生を交えて仲間と一緒に食事をしたのですが、そこでもまた「マジック・モーメント(魔法の瞬間)」が話題になりました。

それは、「マジック・モーメント(魔法の瞬間)」は治療場面で大事なだけでなく、日常の人間関係でも大事になるからです。

私たちは、いろいろな人と付きあうなかで、新しい発見をすることがよくあります。

思いがけない人が気遣ってくれたり配慮したりしてくれて嬉しくなることもあります。

それがきっかけで、さらにいろいろな人と交流するようになり、自分が変わっていくようになります。

「マジック・モーメント(魔法の瞬間)」を大切にしようと笑顔で話しながら、食事会は幕を閉じました。

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