こころトーク

2020.05.29

第244回 「人生と真珠貝」

ちょうど先週の金曜日、愛媛新聞の『ふるさと大学「伊予塾」』のコーナーに私の文章が掲載されました。

「伊予塾」は、愛媛県出身の人たちが県民のために講演をする企画を続けているのですが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受けて新たに、これまでの講演者が寄稿する企画を立て、紙面でメッセージを伝えるように依頼を受けました。

その文章の締めくくりに選んだのが、「こころトーク」で何年か前に紹介した真珠貝の話です。

「真珠は、砂粒を核に作られます」という書き出しで始まるエピソードが、認知行動療法のパイオニアのクリスティーン・A・パデスキーとデニス・グリンバーガーが書いた著作『うつと不安の認知療法練習帳』の改訂版に紹介されていました。

この話を締めくくりに選んだのは、真珠が愛媛県宇和島市の特産だからです。

それをもう一度ここで紹介したいと思いますが、真珠のもとになる砂粒は最初、真珠貝にとって不愉快でやっかいな邪魔者として存在します。

だからといって、真珠貝は、その砂粒を外に吐き出すことができません。

自分のなかに抱えているしかないのです。

そこで真珠貝は、その不快感を消すために、時間をかけて、砂粒という不愉快な邪魔者のまわりをなめらかな物質で包んでいきます。

そうしてできあがるのが美しく輝く真珠です。

私たちの人生も真珠貝と同じです。

私は、今回のCOVID-19の感染拡大を体験して、とくにそうした思いが強くなりました。

結婚式を挙げられなくなるなど、一生に一度の計画を中止しなくてはならなくなった人は少なくありません。

夏の甲子園大会が中止になったと聞いて涙を流している高校球児の姿をテレビで見たときには、胸が詰まる思いがしました。

結婚式も甲子園も、また他の催しも、もう二度と同じことはできません。

その意味では、今回の体験は真珠貝の砂粒のようなものです。

しかし、そうした人たちには、それまで一緒に準備をしてきた人たちがいます。

一緒に涙を流し、悔しがってくれる人がいます。

これから一緒に進んでいける人がいます。

そうした体験が、こころの傷になりそうな体験を取り囲み、将来きっと、こころの中で輝く真珠になると信じています。