こころトーク

2020.06.05

第245回 「認知行動療法に対する誤解に注意」

先日、神奈川精神医療人権センターの人たちに呼ばれて講演をしました。

精神疾患を持った人たちが社会で安心して生活できるようにと考えて支援に携わっている人たちで、専門職の人だけでなく、自らが精神疾患にかかったことがあり、その経験を生かして相談に乗っている人たちもいます。

そうした人たちが相談に乗るときに認知行動療法の考え方を使いたいということで、呼んでいただきました。

私の話の後に自由討議に移ったのですが、そのなかで、私の話を聞いて救われたという方がいました。

その人は、以前に認知行動療法の治療を受けたことがあるそうですが、逆につらい思いをすることになり、今でもその気持ちが続いていたといいます。

その人のこころが楽になったという私の話は、認知行動療法の誤解の一例としてよく紹介するものです。

職場でみんなが食事に行くときに自分だけ誘われず、「やっぱり皆から嫌われているんだ」と考えて落ち込んでいる人に、「そう考えるから落ち込むんだ。あなたの仕事が忙しいから気をつかってくれたと考えれば気持ちが楽になるでしょう」と言ってなぐさめ、認知行動療法を紹介する例です。

たしかに、「皆から嫌われている」というのは一方的な思い込みかもしれません。

しかし、「気をつかってくれた」というのもまた同じように、根拠のない思い込みの可能性があります。

そもそも、嫌われているかどうかは別として、職場でいじめが起きている可能性も否定できません。

その場合は、考え方を変えるのではなく、職場の環境を変えなくてはなりません。

このようにいろいろな可能性を考えて、現実を検証し、適切な対処法を考えていくのが認知行動療法的で、楽観的に考えを切りかえるのが認知行動療法ではありません。

このような話をしたところ、先に紹介した参加者は、認知行動療法を受けたとき、「皆から嫌われている」という考えを変えるように指導されたというのです。

そのように言われて、その人は、「考え方が悪い」と非難されたように感じて傷つき、それが今まで続いていました。

しかし、私の話を聞いて、自分の考えが良いか悪いかではなく、あるひとつの考えにしばられることでつらくなっていたということに気づいたといいます。

誤解が解けて気持ちが軽くなったと聞いて、私のこころも軽くなりました。

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