こころトーク

2020.08.21

第256回 「マスクをつける理由に見るこころの知恵」

マスクをつける理由を尋ねた調査の結果を見たとき、私たち人間はやはり社会的な動物なのだと思いました。

新聞報道されたのでご存知の方も少なくないと思いますが、自分がマスクをつけるのはまわりの人がマスクをしているからだ、と答えた人がほとんどでした。

マスクのウイルスの侵入防止効果が少ないということは、もう多くの人が知っています。

新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた頃に、世界保健機関(WHO)がマスク着用を勧めなかったことがありますが、それは、マスクをしているというだけで安心してしまい、手洗いなど、基本的に大事な感染防止策をきちんととらなくなると問題だと考えたからです。

しかし、その後、新型コロナウイルス感染症の感染経路が接触感染だけでなく、飛沫感染もあるということがわかってきました。

そして、閉鎖空間で他の人に飛沫感染させないためにマスクが効果的だということから、最近は欧米でもマスクが義務化されるようになってきています。

日本でも、他の人にウイルスをうつさないためにマスクをつけるようにと言われていますが、冒頭に紹介した調査結果を見ると、他の人のためにと言われても、ほとんどの人は、そのように考えてマスクをつけているわけではないようです。

むしろ、自分だけが特別なことをすると集団から排除され自分が困ることになると考えて行動する人が、圧倒的に多いのです。

これは、良いか悪いかではなく、集団のなかでお互いに助け合いながら生き延びてきた私たちのこころの知恵です。

こうした知恵は、今のような危機的状況に直面したときに強く出やすくなります。

それ自体は悪いことではありませんし、こうした周囲への配慮があるからこそ、社会がスムーズに進んでいっています。

その一方で、まわりと違う行動を取っていると、まるで社会に反抗しているように見られる危険性もあります。

自粛警察と言われる人たちは、自分たちの社会を攻撃されているように感じるので、あのような極端な行動に出るのでしょう。

しかし、マスクひとつをとっても、アレルギーや精神的な障害のためにつけられない人がいます。

私たちが集団のなかで気持ちよく生活するためには、そうした個別の事情にまで心配りをする余裕が必要です。

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