こころトーク

2020.10.30

第266回 「知っているようで知らないアメリカのいま」

私が監訳した『アメリカは正気を取り戻せるか:精神科医が分析するトランプの時代』(創元社)が間もなく書店に並ぶと連絡がありました。

これは、私の恩師でもあり親友でもある精神科医のアレン・フランセス先生が書いた現代アメリカ論です。

2016年、米国にトランプ大統領が誕生したとき、フランセス先生から、妻のドナが髪の毛を引き抜かんばかりに引っ張って嘆き悲しんでいるというメールが入りました。

民主党シンパのフランセス夫妻にとって、共和党から出馬した破天荒なトランプ大統領が受け入れられないのだろうと思いながら、大統領一人で大国アメリカ社会がそう大きく変わるものではないだろうと返事を書いたのを思い出します。

しかし、皆さんもご存知のように、アメリカ社会は大きく変貌しました。

しかも、怒りと排除という良くない方向に変わっていったのです。

フランセス先生の感覚の鋭さをあらためて感じました。

トランプ大統領を生んだアメリカ社会について分析する本を出版することになったという連絡がフランセス先生から入ったのは、大統領選からしばらく経ってからのことです。

その本が出版されて内容を読んでみると、私が知らないアメリカの現状がいろいろと書かれていました。

この本の中には、ブラック・ライブズ・マター(BLM、「黒人の命は大切だ」を掲げた人種差別撤廃運動)や新しい感染症の話など、いま世界で起きている大きな問題を予言するような内容も書かれています。

トランプ大統領を強力に支援した原理主義のキリスト教徒に向けた皮肉を交えた文章など、日本に住む私には違和感を覚える部分もありましたが、これもまた現代アメリカの課題なのでしょう。

しかも、この本は、米国に限らず、地球規模で起こっている温暖化などの問題も取り上げ、そこにきちんと向き合わないトランプ政権を支援する人たちを問題視しています。

私は、そのときには実感がわかなかったのですが、今年の大統領選挙の報道のなかで、多くのアメリカ人が、地球温暖化を作り話だと考えているということがわかって、フランセス先生の危機感が理解できる感じがしました。

アメリカに関する情報はあふれていても、知らないことがたくさんあるようです。

わかっているようでわからないことがあるというのは、普通の人間関係でも同じでしょう。

そうした状況を乗り越えるために、世界が力を合わせるチーム・アースの取り組みが大事だとフランセス先生は主張します。

このようなあまりにも当たり前の提言が意味を持つ時代になっているのだと思いました。