こころトーク

2020.12.18

第273回 「チャンスを逃がさない『アスピレーション』の力とは?」

先日、米国のライターのインタビューを受けました。

認知行動療法の創始者のアーロン・ベック先生の伝記を書いていて、ベック先生との話のなかで私の名前が出たので話を聞きたいと言って連絡が入ったのです。

とても光栄な申し出だったのですが、十分とは言えない私の英語力で、私が感じているベック先生の素晴らしさを伝えられるかどうかとても心配になりました。

しかし、せっかくの良い機会なので断る理由はなく、緊張してインタビューに臨みました。

その当日、さすがに優れたインタビュアーだけに、上手に話を導いてもらえて、何とか役割を果たすことができました。

不安を感じやすい性格の私で、慣れないことを前にすると緊張して逃げ出したくなるのですが、実際に行動してみると想像したほど悪いことは起こらないということを、今回もあらためて感じました。

そもそも、アメリカに留学するのを決めたのは、不安傾向の強い私には想像もできないほどの大きな決断でした。

そのころ何歩も日本の前を進んでいた米国の精神医学を学びたいという思いがあったのは確かです。

そのときに、たまたま米国留学の可能性が出てきました。

そこで、アメリカで臨床を実践できる資格試験を受けて、その試験に合格したところで、取るものも取りあえず、家族を日本に残したまま一人で飛行機に乗りました。

ビザも、通常の留学用のビザではなく、観光ビザでした。

そのために、何カ月か経ったところで、密かにアメリカを出国して、カナダの米国大使館で留学ビザを取り直すという、違法ギリギリのことまでしなくてはならなくなりました。

その後も、英語が十分にできないと言うことでなかなか給料をもらうことができず、貯金を切り崩す貧しい生活を家族に強いることになりました。

クレジットカードだと支払いが遅くなるので、カード払いで切り抜けた経験も、今となっては懐かしい思い出です。

でも、そのおかげでベック先生やフランセス先生など、かけがえのない恩師に会うことができました。

それができたのは、せっかくつかんだ勉強の機会を手放したくないという思いでした。

それが、最近のベック先生が認知行動療法で重要視しているアスピレーション(希望を持った熱情)の力だと思います。