こころトーク

2021.01.08

第276回 「『どうせ』の魔術に注意」

新型コロナウイルス感染者数が高止まりしていることから、緊急事態宣言が発出されました。

その報道に接して、これまでの頑張りを否定されたかのように感じて落ち込んだ人もいるのではないでしょうか。

新型コロナウイルス感染症の拡大をめぐる一連の動きを見ていて、私は、マーティン・セリグマン博士の学習性無力感の研究を思い出しました。

セリグマン博士は、私たちのこころの問題だけでなく強みにも目を向けるポジティブ心理学を提唱したことで知られています。

そのセリグマン博士が50年以上前に発表したのが、失敗が続くと何をしても意味がないと考えるようになるという、「学習性無力感」と呼ばれる現象です。

セリグマン博士は、犬に電気などの不快刺激を与えて、その後の反応を見るという研究を行いました。

その実験では、犬を三群に分けて、第一群の犬は対照群で、電気刺激は与えられません。

第二群の犬には、不定期に電流が流れてショックを感じさせる電気刺激を与えるのですが、犬が目の前のボタンを押せば刺激を止めることができるようにして、刺激を繰り返します。

この第二群の犬は、不定期に流れる電気刺激のためにつらい思いをするのですが、そのときにボタンを押せばその不快刺激をコントロールできることを知り、つらい体験をしても自分でそれを乗り越えることができるということを学習します。

第三群の犬たちは、電気刺激を受けるだけで、それを自分で止めることができないような設定になっています。

こうして、最後の群の犬たちには、自分の力ではつらい環境を変えることができないという無力感を植え付けるのです。

この状態をセリグマン博士は学習性無力感と呼びました。

さらにセリグマン博士は、こうした学習体験をした犬を床に置いて、床に電気刺激を与えます。

そうすると、第一群と第二群の犬は逃げ出すのですが、第三群の学習性無力感を持った犬は逃げようという様子が見えません。

まるで、「どうせ何をやってもダメだ」と考えているかのようです。

自分で逃げようとしないからつらい状況が続いているのに、「どうせ…」と考えることで動けなくなり、「やっぱりダメだった」とつらい現実を受け入れてしまっているのです。

このようなこころの状態を、私は「どうせ」の魔術と呼んでいるのですが、新型コロナウイルス感染症対策でも、この「どうせ」の魔術にかからないようにする必要があります。