こころトーク

2021.04.09

第289回 「『希望をもった情熱』が動かすリカバリー」

今週、経済産業省のヘルスケア産業課で認知行動療法について話をする機会をいただきました。

国民のウェルビーイング向上、つまりこころの健康保持増進に認知行動療法を活用することを考えていらっしゃるとのことでしたので、入念に準備をして、無事に話を終えることができました。

その最初のパートで紹介したのが、精神疾患を持つ人、持たない人が一緒になって町おこしに取り組んでいる愛媛県愛南町の取り組みです。

愛南町の取り組みについては、何年か前に「こころトーク」でも紹介しましたが、精神科病院に入院していた200人弱の人たちをすべて退院させて、それまで町に住んでいた人たちと一緒に、果樹園栽培や林業、養殖などの産業に取り組んでいきました。

そのように、精神科病院に入院している人が全員退院して、街に住んでいた人たちと一緒に働くというのは世界的にも稀な、画期的なことです。

しかし、関係者の希望に満ちた熱意があれば、それが可能になるのです。

そして、そのためには、地域全員で取り組む産業の進行が大きな役割を果たすことを説明して、経済産業省でも、リカバリーの推進のために愛南町のような取り組みが全国に広がるような支援をしてほしいとお願いしました。

リカバリーという言葉になじみのない読者の方もいらっしゃると思いますので、ここで少し説明しておきましょう。

リカバリーというのは、何らかの障害を抱えながらも自分の力や持ち味を生かして自分らしく生きていくことだと、私は考えています。

それは、身体疾患でも精神疾患でも同じです。

昨年の秋、認知行動療法の創始者のアーロン・ベック先生は、仲間と一緒に、『Recovery-Oriented Cognitive Therapy for Serious Mental Health Conditions(仮題:リカバリーのための認知療法 ―「重度」かつ「慢性」からの再起)』というタイトルの本を出版しました。

これは、何十年と入院生活を続けている重篤な精神疾患を持った人たちに認知行動療法を使って、退院まで結びつけることを目的とした本です。

その際のキーワードがアスピレーションです。

日本語だと、希望を持った情熱とでも表現すれば良いでしょうか。

そのベック先生が、関心を持っていたのが愛南町の取り組みでした。

それはまさにアスピレーションが現実を動かした証で、精神疾患を持つ人だけでなく、そうでない人にも大切にしてほしい言葉だと私は考えています。