こころトーク

2021.07.16

第303回 「アイスクリームが教えてくれる」

日経サイエンス社から、先月末に『アイスクリームが教えてくれる』というタイトルの本が出版されました。

2001年からほぼ毎週、日経新聞で連載を続けている「こころの健康学」の原稿をまとめたもので、コロナ禍で出版した本としてはきずな出版の『うつな気持ちが軽くなる本』に続いて2冊目となります。

書籍のタイトルは基本的に編集者がつけたものを追認することがほとんどですが、今回ばかりはその奇抜なタイトルに戸惑いました。

そのようなタイトルになったのは、関西で講演を終えて東京に帰るときに、東海道新幹線で食べるアイスクリームを題材に選んだコラムが含まれていたからです。

人前で話すのが苦手な私にとって、講演は頭を使うだけでなく、体力もかなり使います。

そうしたときに、体重を気にしながらアイスクリームを食べるのは、自分へのちょっとしたごほうびになっています。

ところが、残念なことに、そのアイスクリームがひどく固くて食べられるまで柔らかくなるのに時間がかかります。

その時間を短くするために、体温の伝わりやすいアルミ製のスプーンを開発したという報道に接して、その知恵に感心してコラムを書きました。

編集者はそのコラムに興味を持って、アイスクリームを書籍のタイトルに使いたいと考えたようです。

たしかに、このコラムは、仲間内で話題になったもののひとつです。

コラムを読んだ高校の同級生からは、アルミ製スプーンは以前から発売されていてすでに持っているというメッセージが届きました。

別の知人からは、新幹線のアイスクリームを食べるのにアルミ製スプーンを使うのは反対だと連絡が入りました。アイスクリームが柔らかくなるまでにかかる時間が愛おしく、その時間を大切にしたいと言います。

そうした意見を聞きながら、同じ体験でも人それぞれに違っているのだとあらためて感じました。

こうしたお互いの違いを理解し、お互いに大切にすることで、それぞれの人が自分らしく生きていくことができると感じられる体験で、それが本のタイトルになったことで、最終的にはうれしい気持ちになりました。