こころトーク

2021.08.06

第306回 「人生と武道に共通の大切なこと」

私が書いた文章が載っている月刊「武道」8月号が手元に送られてきました。

「武道」は日本武道館が発刊している月刊誌で、以前に連載した文章をまとめて『「心の力」の鍛え方―精神科医が武道から学んだ人生のコツ』(岩崎学術出版社)というタイトルで出版したこともあります。

そうした縁もあって、今回は編集部から、武道の体験が人生にどのように影響したかについて書いてほしいという内容の依頼を受けました。

決して武道を極めたわけではなく、入り口のところで少しウロウロしただけの私に何が書けるか考えていたときに、30年以上前、アメリカ留学中の外来診療での一場面を思い出しました。

そのとき私は、うつ病がなかなか改善しないで苦しんでいる患者さんの診療場面に同席していました。

その患者さんは、治療を受けてもうつ病の症状がなかなか改善しない苦しみを主治医に訴えつづけていました。

主治医が医学的な説明をしても耳を貸そうとしません。

私はその場面に同席していたのですが、患者さんがあまりに苦しそうだったので、つい口を挟んで、自分の子どもの成長の話をしました。

自分の子どもは、早く大きくなってほしいと考えていても、まったく変化していないように思えます。

ところが、しばらくぶりに会った自分の両親は、会っていない間にずいぶん成長していることに気づきます。

一緒に生活していて、「いつ変わるか、いつ変わるか」と考え続けていると変化に気づけないのですが、時間をおいて会うと変化に気づけます。

同じことは、自分にも当てはまります。

「症状が早く改善してほしい」という思いであっても、あることを「早く上手にできるようになりたい」という思いであっても、工夫し努力していれば、気がつかないうちに変化がうまれてきます。

武道の体験も同じです。

いくら稽古を重ねても変化していないように思えても、いつの間にか上達していることに気づきます。

人生でも武道でも、待つ力が大事です。