こころトーク

2021.10.22

第317回 「できない理由を考えていませんか?」

先週紹介した国立精神・神経医療研究センターの認知行動療法センター設立十周年記念イベントのなかで、当時総長だった樋口輝彦先生がおっしゃった言葉を聞いて、私はとてもうれしく思いました。

当時、国立精神・神経医療研究センターは新しい発展の時期を迎えていて、樋口先生を中心に新しい組織を立ち上げることになっていて、その中に認知行動療法センターが含まれていました。

そのとき私は、センター長として声をかけていただいたのですが、それまでずっと私学や私立の医療機関で自由に診療や研究をしていた私にとって国立の機関はまったく未知の組織でした。

ですから、どれだけ自由に活動できるかが私にとっては大問題で、移籍するにあたっていろいろと条件を出しました。

今考えると、思い上がっているようで恥ずかしいかぎりですが、そのときは決断にそれほどの思いが必要でした。

前置きはこれくらいにして、冒頭に書いた樋口先生の言葉ですが、「できない理由を考えるのではなく、できる理由を考えろ」とまわりの方々におっしゃっていたというのです。

つまり、「こうした条件があるからできない」と考えるのではなく、「こうした条件を満たせばできる」と考えるようにという指示を出されたそうです。

そこまで熱心に考えて誘っていただいていたことに感謝すると同時に、私は、ご自分たちの目標のためにそこまでの思いで、認知行動療法センターの設立に力を尽くそうとされていたことに驚き、改めて感謝の気持ちがわいてきました。

誰でも、困難に直面すると、それを実行できない理由を考えます。

そのようにしてできない理由を並べると、気力は失せてきますし、希望も持てなくなります。

そうしたときに、できる理由を考えて、その条件を一つひとつクリアしていければ、確実に将来に向かって進んでいくことができます。

そして、そうした思いは、一緒に進もうとしている相手にも必ず伝わります。

今になって考えると、我儘にも受け取られかねない要望を私がいろいろと出していたのは、新しい環境に不安を感じていたからだと思います。

しかし、樋口先生たちのこうした真摯な姿勢があったからこそ、私は自分の不安を乗り越えて新しい環境に身を置く決断ができたのだと考えています。

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