こころトーク

2021.11.05

第319回 「アーロン・T・ベック先生のように」

認知行動療法の創始者で私の恩師でもあるアーロン・T・ベック先生が亡くなりました。

連絡が入ったのは、111日の夜です。

後輩たちとのオンラインの認知行動療法の勉強会が終わって、仲間と雑談をした後、夜の9時半過ぎでした。

メールをチェックしていると娘でベック認知行動療法研究所所長のジュディス・ベックからメールが入っていました。

ベック先生の死を知らせるメールでした。

今年の718日に、十数名のゆかりの人間がオンラインで100歳の誕生日を祝う会を開いたばかりだったので、亡くなったと聞いて驚きました。

たしかに誕生会の時には、下肢を骨折して横になっての参加でしたが、意識ははっきりしていました。

その直後に、ジュディス・ベックから、リハビリを始めると孫に話しているというメールが入って安心していたのですが、とうとう帰らぬ人になりました。

多くの人が様々な思いを抱いたことは、ベック先生の訃報を伝えた私のツイッターのインプレッションが1日あまりで19万を超えたことからもわかります。

私がベック先生に最初に会ったのは1987年のことでした。

コーネル大学時代の私の恩師で、今では友人でもあるアレン・フランセス先生から認知行動療法を紹介されたことがきっかけです。

私にとっては初めて耳にする治療法でした。

しかし、コーネル大学で指導を受けながら実施した認知行動療法は、効果が実感できる治療法でした。

1960年代の初頭、認知行動療法を開発して自分のクリニックで実践したところ、効果が高くて患者数が減り、クリニックの経営が傾いたというベック先生のエピソードが納得できる体験でした。

当時のペンシルベニア大学精神科の主任教授に相談したところ、君は経営が上手ではなさそうだからと大学勤務を勧められたという話を、ベック先生が語っている動画がユーチューブにアップされています。

そのときのエピソードを楽しそうに話しているベック先生の姿を観ると、ついこころが和らぎます。

すごく温かく人間的で、少しお茶目なベック先生の人柄が伝わってくる感じがします。

それから約35年近く、患者さんや仲間とベック先生のように接したいと考えながら生きてきました。

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