前回のこころトークでは、失敗した体験を将来に生かすことが大事だと書きました。
そのためには、どのようなことを意識すれば良いのでしょうか。
そもそも、失敗すると気持ちが動揺して、良い考えなど頭に浮かばなくなります。
そうすると、良くない可能性ばかりを考えるようになって、ますます気持ちが動揺することになります。
私のように平凡な人間にとって、前回例に出したプロゴルファーのタイガー・ウッズのように、逆境からうまく復活するのはなかなか難しそうです。
そのようなときに私が思い出すのは、十八世 中村勘三郎の、「型を身につけているから型破りができる、そうでなければ形無しだ」という言葉です。
中村勘三郎は天才的な歌舞伎役者でしたが、血のにじむような稽古を続けて歌舞伎の型を身につけていったと言います。
それでも舞台上で台詞を忘れたりすることがあったようです。
彼が、そのような突発的な状況をうまく切り抜けることができたのは、それまで繰り返し稽古して身につけた型があったからです。
タイガー・ウッズも、同じように練習を繰り返して今の技量を身につけることができたのだと思います。
さて、ここまでタイガー・ウッズや中村勘三郎など、尋常でない能力を持っている人の例を出してきたので、自分とは関係ないと考える読者の方がいるかもしれません。
でも、人生を生きることに関しては誰もが力を持っています。
ここまで生きてきた経験の力もあります。
それを生かす型を身につけることができれば、今まで以上に自分らしい生活を送れるようになってきます。
その方法をわかりやすくまとめたものが認知行動療法だと、私は考えています。
たとえば、思いがけないことが起きて気持ちが動揺したときに、ちょっと立ち止まって自分を取り戻す。
そのときに、とっさの考えにしばられないで現実にしっかりと目を向け、自分が期待する現実に少しでも近づけるように工夫する。
小さな喜びを感じる体験を増やしてこころを元気にしていく。
こうした基本的な型を身につける手助けをするのが認知行動療法ですし、そうした型が身につけば今まで以上に自分らしい生活を送れるようになってくるはずです。