昨年、アーロン・ベック先生の著書“Love is never enough”が『愛はすべてか』という邦題で金剛出版から出版されました。
1988年、私がベック先生に初めて出会って間もなくに出版された本で、同じころに留学していた井上和臣先生が日本語訳をされました。
この本は、夫婦関係について書かれていて、タイトルからわかるように、より良い関係を続けるためには、愛情だけでは十分ではないというメッセージが込められた内容になっています。
結婚前、恋人の時代なら、愛情があれば十分です。
少しくらい良くない面があったり、意見が食い違うことがあったりしても、愛情のために目に入ってきません。
まさに「あばたもえくぼ」です。
しかし、ずっと一緒に生活をするようになると、「あばた」は「あばた」として認識されるようになります。
そのときに大事になるのが「認知」だとベック先生は書いています。
そのためには、重要なポイントが二つあると、私は考えています。
そのひとつは、良くない面だけでなく、良い面にも意識的に目を向けることです。
人間関係に限ったことではないのですが、私たちは良くない面が気になり出すと、そのことばかりに気がいって、良い面に目が向かなくなってきます。
そうすると、良くない面が現実以上に大きく見えてきて、良い面などないように思えてきてしまいます。
意見や見方が違うと思うと、ますます相手との距離が開いてきたように感じます。
そうしたことを避けるためには、良い面に意識的に目を向けるようにします。
そのとき、第二のポイントとして、二人が同じように大事にしたいことを意識できるようになると良いでしょう。
私がずっと一緒に活動してきた青森県南部町の町民向けのチラシに、新しく店を出そうと話し合っているカップルが、南部そばのそば屋さんにするか、特産のさくらんぼで作ったケーキを出すコーヒーショップにするかで言い争っているマンガが載っていました。
それは、人の意見は、いくら親しくても違うもので、そうしたときには、二人で店を出して一緒に切り盛りしたいという思いを大切にしてほしいというメッセージを伝えるもので、いろいろな場面で必要になる考え方です。