こころトーク

2022.03.25

第339回 「意味があると思ったことを続ける大切さ」

先日、青梅慶友病院を立ち上げた大塚宣夫先生と話をする機会がありました。

大塚先生は、慶應義塾大学精神神経科の大先輩で、日本で初めて質の高い高齢者医療を立ち上げた精神科医です。私が慶應義塾大学に勤めていたときには、「大往生」というタイトルで学生向けの特別講義をされていました。

なぜ高齢者医療の仕事を始められたか尋ねると、「高齢社会に向かうなか、そうした問題に誰も本気で取り組んでいなかったから、能力の低い自分でもやっていけると考えたからだ」と、おっしゃいました。

しかし、病院の内容を知ると、それが謙遜だとわかります。

そのころ、そして今でも、優秀な医師は、最先端の医療を志して、がんや心臓病など、花形の領域に進みます。そうしたなか、ほとんど顧みられることがなかった高齢者医療に目を向け、取り組んでいくのは勇気がいったと思います。

たしかに、その頃の高齢者施設は「老人ホーム」と否定的なニュアンスで語られていました。そうした時代に、高齢者に質の高い医療を提供しようと、地域と共同で青梅慶友病院を立ち上げたのです。

質が高いのは、医療だけではありません。生活の質も大事にしています。病院の壁に掛けてある絵画は、車椅子で見たときに最適な位置に掛けてあります。

病院の中でお酒も飲めます。先が長くないのだから、無理して節制しないで、自分らしい生活を送るのが大事だという考えからです。こうした発想の病院を昭和55年に立ち上げた発想力には驚くばかりです。

最初は大変なことも多かったと思いますが、病院は発展し、新たに、よみうりランド慶友病院も開設されました。目の前の流行や成功にとらわれずに、自分にとって意味があると考えたことを続けることの大切さがわかります。

コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻で先が見えにくくなっている今の時代に、大事なこころの持ち方だと思いました。

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