前回は、良い人間関係を築くためには上手に言葉を使って気持ちを伝え合うことが大事だと書きました。
こころの健康は、人間的な繋がりが何よりも大事だからです。
医療界では、バイオ・サイコ・ソーシャル(bio-psycho-social)という表現がよく使われます。
最近その大切さが指摘されているウェルビーイングもバイオ・サイコ・ソーシャルが健康な状態を意味するとされていて、そのなかのバイオというのはbiology、つまり生物学的、肉体的な健康を意味しています。
脳を含めた身体が健康かどうかに目を向けた言い方だと言っても良いでしょう。
サイコというのはpsychology、つまり心理的な健康を意味していて、うつや不安などの精神的な不調があるかどうかに目を向けます。
次にソーシャルですが、これまで社会と訳されることが多かったように思います。
そのために、医療分野でも心身の健康を守るために社会の仕組みが大事だと言われたりします。
しかし、個人の心身の健康を考えるときには、社会的な仕組みといった意味での社会環境というよりも、人と人の繋がりを意味しています。
ですから、「社会」と訳すよりは「社交」と訳した方が言語に近いのですが、それだとわかりにくいので、私は「対人交流」と訳しています。
対人交流がスムーズに行くと、とくにこころの健康度は高まってきます。
ソーシャルキャピタルという言葉で言われるように、人間関係や人間的つながりは大切な社会的資源です。
対人交流は、個人レベルの健康度だけでなく、社会全体の健康度を高めるためにも大切な役割を果たしているのです。
中でも大切なのが、親しい人との間での対人交流はこころの健康にとってとても大切な働きをします。
とくに、家族や夫婦の間の人間関係がどのようになっているかで、私たちのこころの状態は様々に変化します。
ですから私たち精神科医は、こころや体だけでなく、その人の人間関係にも目を向けるように指導されています。
コロナ禍でこれまで当たり前だと考えて意識していなかった人間関係の大切さに、多くの人が気づいたのではないでしょうか。
その気づきをこれから皆と一緒に育んでいければと考えています。