レジリエンスというのは、逆境に置かれたときに発揮される地域や組織、人間の強さを表す言葉です。
レジリエンスは、こころの強さにも使われていて、アメリカ精神医学会の関係者が執筆した『ポジティブ精神医学』(金剛出版)という本のなかでは、「曲がっても折れない力、曲がっても元に戻る力」と表現されています。
私たち誰もが持っていると言われるレジリエンスですが、新型コロナをめぐる人々の対応をみていて、私は、改めてその存在を感じました。
とくに、コロナ禍で個別性を意識することができるようになったことで、私たちのこころは以前よりも強くなったように思います。
個別性は、在宅勤務をめぐる働く人たちの思いにも現れていました。
人が集まるのは感染対策上望ましくないと言われて、多くの企業で在宅勤務が導入されました。
新型コロナの感染拡大が始まったころ、私が産業医をしている企業でも、全員が在宅勤務になる時期がありました。
ところが、在宅勤務の指示が会社から出ているにもかかわらず、人の目につかないようにそっと出社する人がいました。
その人たちの話を聴くと、同僚との交流が突然断ち切られたように感じて、孤独感が強くなってしまったようです。
勤務経験のほとんどない若い人たちは、行きづまったときに質問できる人がまわりにいなくて困っていました。
その一方で、在宅勤務を喜んだ人もいました。
通勤をしなくて良くなったので、体の負担が減ったという人は多かったようです。
なかでも人間関係が得意でない人たちは、自分だけの世界で、自分のペースで仕事ができるようになって良かったと言っていました。
このような話を聴いていると、画一的な働き方が要求される会社の中で、それぞれの人がどこか無理をして働いていたということに気づかされます。
もちろん、他の人と一緒に仕事をしたり活動したりするためには、どこかで自分を抑えてまわりにあわせる必要があります。
しかし、無理をしすぎると本来の自分の力を発揮できなくなります。
コロナ禍でこうした個々人の個別性に目を向けるようになったことは、私たちのレジリエンスを高めるきっかけになったと、私は考えています。