ChatGPTを提供しているオープンAI社の創業者サム・アルトマン氏が来日したこともあって、生成系AIの話題がさらに盛り上がりをみせています。
前回は、ChatGPTを使った認知行動療法のやりとりを紹介して、そのようなやりとりができるためには利用者が認知行動療法を十分知っている必要があると書きました。
そのことについて少し説明します。
認知行動療法では、ある出来事の良くない面に目が向いてつらくなっているこころの状態から距離を置いて、全体に目を向けながら問題に対処できる力を引き出すカウンセリングの手法です。
もちろん、思いがけない出来事に出会ったときに、とっさに良くない可能性を考えて身を守ろうとするのは、私たちの自然な自己防衛反応です。
そのようなときに、楽観的に考えてのんびりしていたのでは、突発的な問題に対応できなくなる可能性があるからです。
そのために、私たちは一般的に、最初は良くない可能性を考えて身構えるのです。
ですから、認知行動療法で相談をしているときには、そのように良くない可能性を考えることは自然なことだとまず受け止めるようにします。
そして、その上で現実に目を向け直せるように手助けしていくようにします。
先週も書きましたが、ChatGPTも「それはつらい体験だったでしょう」と共感した上で、「そのように考えるのは自然なことですが、それが事実であるというわけではありません」と、現実に目を向け直すように勧めています。
ここまでの流れは認知行動療法の手順通りに進められているのですが、新しく試した対処法を自分のものとして身につけていくためには、このようなやりとりだけでは十分ではありません。
専門的には「理論的根拠」と言われますが、なぜこのようなことをしているかを理解していなければこうしたやりとりを有効に行うことができませんし、その手順を自分のものにして自分で工夫していけるようにもなりません。
悩みを抱えていることもあって最初は受身の状態ですが、そこから次第に自分で考え、行動できるようになることが大切なのです。
そのためには手順を理解しておくことが必要になります。
考えをただ切り替えるだけでは不十分で、次にどのようにすれば良いか工夫し、必要な行動をとる主体性を大切にすることで、私たちのこころは整っていくのです。