先日、精神医療の専門家を対象に行われたうつ病の認知行動療法の研修会を担当しました。
そのなかで、行動することでこころを元気にする行動活性化についても説明しました。
そこに出席していた先輩の精神科医が、うつ病の治療は休養から始めることが大切だと言われてきたが、行動活性化の考え方と矛盾するのではないかと質問されました。
たしかに、うつ病でこころに元気がなくなっているときには、無理に動かないで休むことが役に立ちます。
それは、何としてでも頑張らないといけないという思いに縛られないようにするためです。
気持ちが沈み込んでいるときに頑張ろうとしても、頑張りに必要なエネルギーはわいてきません。
そのようなときには、動けない自分をそのまま受け入れて、動かないで静かに休むことに意味があります。
つまり、前回も書いた「動かない」という活動を通して、「何とかしないと大変なことになる」という考えが必ずしも正しくないことを認識することが役に立つのです。
それと同時に、休みながら次の手を考えていくことで、先に進める可能性が生まれてきます。
ただ、休んでいるばかりだと、こころのエネルギーは徐々に失われていきます。
何かをしてみたいという前向きな気持ちになれるのは、ある体験をして、それが自分にとって意味があると感じられたときです。
脳科学的に言えば、報酬系と呼ばれるドーパミンに関連した神経システムが刺激されてはじめて、またやってみたいという意欲がわいてきます。
以前に、禅の高僧と話をしたことがあります。
その人は、うつ状態の人に座禅をしてもらうのはむずかしいとおっしゃっていました。
どうしても雑念がわいてきてしまうからです。
そのような人には、まず庭掃除をしてもらうのだそうです。
掃除をして、きれいになっている庭を見るとこころが癒されます。
掃除ができた自分に気づくこともできます。
もし少ししか掃除ができなくても、そのような行動をとろうとした自分がいることに気づくことができます。
そうすれば、何もできないと考えていた自分のイメージがよい方向に変わってくるはずです。