ジュディス・ベック先生の講演会とワークショップに参加して、ポジティブな体験をすることの大切さをあらためて感じました。
ポジティブな体験というと、ワクワクするような良い体験をイメージする人が少なくありません。
しかし、ワクワクする体験をすることはそんなに多くありません。
ほんの少しこころが安らぐような体験で良いのです。
おもしろい動画を観てクスッと笑ったり、ボンヤリと窓の外を眺めたりするだけでも、こころは安らぎます。
気の置けない友達や家族と馬鹿馬鹿しい話をして笑うのでも良いでしょう。
そのようなささやかな体験ができれば、気持ちは変化してきます。
ただそのとき、きちんと認識することが大事だとジュディス・ベック先生は言います。
自分が良い体験ができたことを認識できれば、自分を見る見方が変わってきます。
そのようなことを考えていたときに、以前、NHK厚生文化事業団で「うつ病」のDVDをつくったときの面接を思い出しました。
これは、無料貸し出し用の3巻組のビデオで、第一巻では、私がアナウンサーの町永俊雄さんと対談しながらうつ病について解説していきます。
第二巻は、うつ病を体験した木村健太郎さんのうつ病体験が紹介された後、私が認知行動療法の面談をするという流れになっています。
木村さんは、命を絶つことまで考えるほどのうつ病を体験したのですが、いまは回復して、精神疾患のために仕事を休まなくてはならなくなった人の支援を行っています。
私との面談では、そうした人たちのための研修会で講話をする場面が話題になりました。
木村さんは、話し始める前にとても緊張するとおっしゃいます。
私も同じだと言いながら木村さんの話を聞いていくと、緊張しながらもいろいろな工夫をしていることがわかってきます。
まず遠くに座っている人に視線を向け、その視線を少しずつ前に移していきます。
それも、うなずきながら聞いている人に注意を向けるようにします。
安心して全体に目を向けることができる、とても良い工夫です。
私が感心してそう伝えると、木村さんが笑顔になりました。
緊張する自分から、工夫ができる自分に認知が変わった瞬間です。
そのような体験ができたことを喜んでいる木村さんを見て、私もうれしくなりました。