先日、認知行動療法とマインドフルネスの関係について、とても有意義なご質問をいただきましたので、今回はそれについて書いていくことにします。
そのご質問は、次のような内容です。
マインドフルネスでは自分を否定するような考えが浮かんだときに、それをそのまま受け入れるように勧められます。
それに対して、認知行動療法では、そうした否定的な考えが浮かんだときに、それをそのまま受け入れずに、現実に目を向けて考えの妥当性を検証するように勧められます。
そうだとすると、最初の考えを受け入れるか、受け入れずに検証していくかという正反対のアプローチのように思えるというご意見です。
たしかに、ご質問をいただいた方が書かれているように考えると、正反対のアプローチのように見えます。
しかし、時間の流れを入れて考えると、決して正反対ではないことがわかります。
一般に、認知行動療法は考えを切りかえる方法だと言われることがありますが、これは誤解です。
認知行動療法は、ある場面でとっさに浮かんだ考え(自動思考)にしばられずに、距離を置いて自分が置かれている場面を見つめ直すアプローチです。
それによって、現実に即した考えが生まれてくれば、問題に適切に対応できるようになってきます。
このように自分の考えにしばられず、自分から距離を置くこころの姿勢を、アーロン・ベックは、1979年に出版したCognitive Therapy and Emotional Disorders(『認知療法―精神療法の新しい発展』岩崎学術出版社)のなかでdistancing(距離を置くこと)と呼んで重視しています。
このdistancingの姿勢に東洋の禅の思想を取り入れ、宗教色をなくしたものが、マインドフルネスです。
つまり、認知行動療法では、ある出来事に直面したときに、とっさに浮かんでくる考えにとらわれずに、距離を置いて自分の置かれている状況に目を向けるようにします。
これがdistancingで、そのときにマインドフルネスのアプローチが役に立ちます。
まずマインドフルに自分の考えや気持ち、現実を受け止め、その上でより現実的に考える。
そうすれば、先に進んでいく工夫ができるようになり、こころも軽くなってきます。
このように考えると、認知行動療法とマインドフルネスは、決して正反対のアプローチではなく、基本的な考え方を共有しているアプローチと考えることができます。
質問していただいた方には、認知行動療法の基本的な考え方について、私が提供しているYouTubeチャンネル「こころコンディショナー」のなかのファストレッスン vol.5【考え方が自然に変わる認知行動療法「認知の修正は手段であり目的ではない!」】を参考にしていただくようにお伝えしました。
▼vol.5【考え方が自然に変わる認知行動療法「認知の修正は手段であり目的ではない!」】
https://www.youtube.com/watch?v=IoIfbE7jid4&t=272s