「こころのスキルアップ・トレーニング(ここトレ)」(https://www.cbtjp.net/)の利用者の方からQ&Aのコーナーにとても良いご質問をいただきましたので、その答えとともに共有をさせていただきたいと思います。
それは、「ここトレ」で認知行動療法のスキルのひとつである「状況分析」を練習するための「期待と現実のギャップを埋める7つのステップ」についてでした。「STEP2で実現可能な期待することを書くことになっているが、実現不可能なことを願っている場合にはどうすればいいのか」というご質問です。
同時に、「実現不可能だと思い込んでいるだけの場合もあるのではないか」というご質問もいただきました。
たしかに、どうせ実現できないとネガティブに決めつけてしまっているような場合もあるでしょう。
そのように決めつけているだけかどうかは、自分なりに工夫して取り組んでみることで確認することができます。
自分だけで考えないで、ほかの人に話をして、意見を聞いてみても良いでしょう。
ほかの人の視点が入れば、より客観的な判断をすることができます。
一方で、実際に実現不可能なこともあります。
もしそれが本当に実現不可能だとすれば、それを実現しようとしても無駄にエネルギーを消耗するだけになります。
そのような場合には、無理にその目標を追求するのではなく、それが実現することでどのようになることを期待しているのかを考えてみることが役に立ちます。
とくに重い精神的不調に陥っている人へのアプローチをまとめた書籍『リカバリーを目指す認知療法―重篤なメンタルヘルス状態からの再起』(岩崎学術出版社)の著者の一人のポール・グラント先生が日本で行ったワークショップで、重い精神疾患のために20年以上入院していた患者さんのことを紹介していました。その人にこれからの夢を聞いたところ、病院の院長になりたいと答えたそうです。
精神科病院に長く入院していた人が、これから医学部に行って医者になり、さらには院長になるのはまず無理でしょう。
しかし、「院長になりたい」という言葉の裏には、その人なりの思いが隠されています。
人の役に立つことをしたいという思いかもしれません。
みんなと一緒に活動をしたいという思いかもしれません。
その思いは、院長にならなくても実現できるはずで、CT-R(リカバリーを目指す認知療法)ではどのようことがあるかを一緒に見つけていくようにします。
このように、実現不可能なことを願っていると気づいたときには、その裏にある思いを実現する手立てを考えていくようにすると良いでしょう。