前回、こころを元気にするためにはアスピレーション、つまり自分にとって大切なことを意識することが大事だと書きました。
でも、アスピレーションが大事だと言われても、落ち込んだり不安になったりしているときにはそう簡単に思いつかないし、実現することもできないと考える人は多いでしょう。
たとえば、落ち込んで外来受診している人に、突然、あなたにとって人生で大事なことは何ですかと聞くと、自分のつらい気持ちに寄り添えてもらえていないという気持ちになるはずです。
将来のことなど考えられないほどに追い込まれているのですから、そのような気持ちになるのは自然なことです。
外来でなくても、一人で悩んでいるときに、将来の夢について考えても、何をしても実現するのは無理だと思えてつらくなるばかりです。
落ち込んでいるときには、自分に自信をなくしていますし、将来への希望も感じられなくなっています。
ベックCBT研究所の所長のジュディス・ベック先生とそうした話をしているときに、彼女は、落ち込んでいるときではなく、気持ちがラクになったときに、アスピレーションについて考えてみるのが良いと話していました。
でも、気持ちが落ち込んでいるときには、ラクになることなどありそうにないと思うかもしれません。
しかし、私たちの気持ちはいつも微妙に変化しています。
自分が好きなことややりがいのあることをしているときには、ごくわずかであっても気持ちが軽くなります。
このように気持ちが軽くなった状態を、専門的には「適応モード」と呼びます。
そうした「適応モード」の状態にあるときに、アスピレーションについて考えてみると、将来に向けての思いを見つけやすくなります。
最近のことでなくても、過去の体験のなかで、楽しかったことややりがいを感じたことを思い出してみても良いでしょう。
それも、タイムマシーンでそのときに戻ったようなイメージで、そのときのことを細かく思い出すのです。
その場にいるかのような雰囲気になってくると、こころが「適応モード」になって気持ちが軽くなり、将来に目を向けられるようになってきます。