こころトーク

2022.05.06

第345回 「アーロン・ベック先生の遺作の監訳で得たもの」

ゴールデンウィークも間もなく終わりです。

皆さんは、このゴールデンウィークをどのように過ごされたでしょうか。

私は、認知行動療法の創始者アーロン・ベック先生の遺作になった『リカバリーを目指す認知療法』の監訳の作業をずっとしていました。

前々回の「こころトーク」で、「思い切ってすべてを忘れて、好きなことをして時間を過ごしてみてはどうでしょうか」と書いたのに、相変わらず仕事をしていたのかと思う人がいるかもしれません。

たしかに仕事は仕事なのですが、私にとってアーロン・ベック先生の遺作を日本語訳して出版するというのは、何にも増して大切なことです。

その本の翻訳のために時間を使うことで、私はとても充実した良い時間を過ごすことができました。

それに、いろいろと良い勉強もできました。

この本は、タイトルからわかるように、長期に精神科病院に入院している重い精神疾患を持った人がその人らしい生活を社会で送れるように認知行動療法で手助けしていくことを目的にして書かれた本です。

そのときに大事なのは、それぞれの人が自分の人生の意味を理解して、その目的に向かって一つひとつ行動を積み重ね、課題を克服していくことだと、ベック先生たちは書いています。

そのことを説明した文章のなかで、映画の「メリー・ポピンズ」の一説が紹介されています。

「スプーン一さじのお砂糖があるだけでお薬を簡単に飲める!」

これは、少しでも良いことがあれば、つらいことも頑張ることができるという意味です。

人生を生きていく過程では、誰でもいろいろとつらい体験をします。

そのためにこころが折れそうにもなります。

そのときに、少しでも達成感や楽しみを感じられる体験ができると、つらい体験を乗り越えて先に進むことができるようになります。

この一節に触れただけでも、私は監訳の作業をしていて良かったと思いました。

一つひとつ英語の文章と突き合わせながら読みやすい日本語の文章を考えていくのは骨の折れる作業です。

しかし、それで助かる人がいると考えると、残りの作業にも頑張って取り組もうという気持ちになれます。

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