先日、宮城県女川町を、しばらくぶりに訪問しました。
東日本大震災の後に毎月訪問していた縁で、健康づくり講演会に呼んでいただいたのです。
震災直後と同じように、前日の夜に、仙台や近隣の人たちの認知行動療法の勉強会に参加し、翌日に女川町に入りました。
以前にも「こころトーク」に書いたことがありますが、女川町に訪問していたのは、精神科医として診療するためではありません。
地域のこころの健康を高める町づくりを手伝うのが目的でした。
そのしばらく前まで仲間と一緒に行っていた全国規模の自殺対策の研究から、孤立するとこころの元気がなくなることがわかっていました。
逆に、地域に住んでいる人たちが自然に交流できる人間的な環境ができると、それぞれに自分らしい生活が送れるようになります。
地震と津波で多くをなくした人たちが自分らしく生きていけるようになるためには、そうした人間的なつながりが何よりも大事です。
そうした考えから始まったのが、「聴き上手ボランティア」の人たちが中心になって開かれる「お茶っこすっぺしの会」です。
「お茶っこすっぺしの会」は、町民が集まってお茶を飲みながら郷土のお菓子を食べ、おしゃべりをしたり歌を歌ったりする集まりです。
漁港として栄えた女川町の大漁旗でつくった衣装を着て踊りを披露する人もいました。
私は、「大野先生のちょっと良い話」と題して、専門の認知行動療法の考え方をわかりやすく紹介しました。
みんなの笑いとおしゃべりにそれぞれの人のこころが癒されていました。
町の人たちと一緒に過ごす時間は、私にとってもこころの栄養になっていました。
じつは、東日本大震災が起きた直後、私は自分が書いていることが役に立っているのかどうか、自信が持てず筆が進まない時期がありました。
そうしたなか、女川町の町民から一緒に活動していることを感謝されることで、自分が役に立っていると感じることができるようになりました。
お互いに顔を見て交流することはもちろんですが、自分が書いていることに意味があると感じることができたのです。
そうした活動が今回の健康づくり講演会につながったことが感じられて、温かい気持ちになって女川町を後にしました。