先月末でNHKの朝の連続テレビ小説「らんまん」が終わって、ちょっとしたロスを感じています。
ご存知の方も多いと思いますが、「らんまん」は、高知県の植物学者の牧野富太郎博士をモデルにしたドラマです。
「雑草という草はない」という牧野博士の言葉などを紹介して、私たち誰にも生きる意味があるということを伝えるとても良い内容のドラマだったと思います。
私がこのドラマに興味を持った理由は、世界中で広く使われている「精神疾患の診断と分類」の第三版が植物学をモデルに作られたという背景も関係しています。
この第三版はDSM-IIIと略され、1980年に英語版が出版され、ほどなくして日本語版も出版されました。
この頃、精神疾患の本態(本当の姿)を脳や遺伝子から探ろうとする生物学的精神医学が盛んになり、新たな分類としてDSM-IIIが作られたのです。
その際に参考にされたのが植物学です。
植物学は、「らんまん」で主人公がしたように、それぞれの草花をその形態から分類し、その背景にある遺伝子を調べることで、今の植物分類ができあがっています。
精神疾患も、同じように症状をもとに分類して、その背景にある脳の変化や遺伝子の特徴を解明できるのではないかと考えて、DSM-IIIが作られました。
もしそうした背景がわかれば治療も劇的に進歩するはずです。
しかし、実際はそのようにうまくは進みませんでした。
DSM-IIIが発表されてから40年以上経ちましたが、脳や血液など、バイオマーカーと呼ばれる体の変化の指標を使って診断できる精神疾患は、まだひとつもありません。
考えてみれば、人のこころの動きは遺伝子や脳の働きだけで決まるわけではありません。
そのとき、そのときの、人と人との交流で気持ちが大きく変わることは誰もが体験していることです。
ですから、脳の働きだけでなく、それぞれの人が置かれている環境、とりわけ人間環境まで考えないと、人のこころの痛みを和らげることはできません。
認知行動療法でも同じで、単にその人の考え方の特徴に目を向けるだけでなく、環境との関係も考えていくことが大切です。